盛岡地方裁判所 昭和28年(行)11号 判決
原告 小保内きよゑ
被告 国 外一名
一、主 文
原告の本訴請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「一、被告国との間に、岩手県岩手郡田頭村大字田頭第二十一地割二十七番字森腰宅地二十坪につき昭和二十三年七月二日を買収の時期とする買収処分の存在しないことを確認する。なお右請求の理由ないときは予備的請求として、右宅地につき昭和二十三年七月二日を買収の時期としてなした買収処分の無効であることを確認する。二、被告国は原告に対し右宅地につき昭和二十五年三月二十九日盛岡地方法務局平館出張所受附第二六七号をもつてなした同被告に対する所有権移転登記の抹消登記手続をなすべし。三、被告佐々木賛五郎は原告に対し右宅地につき前同日同出張所受附第二七〇号をもつてなした同被告に対する所有権移転登記の抹消登記手続をなすべし。四、訴訟費用は被告等の連帯負担とする」との判決を求め、その請求原因として、
一、請求趣旨記載の宅地は原告の亡夫小保内松次郎(昭和十七年四月九日附の許可により同年六月五日旧名正一を松次郎と改名届出)が昭和十六年十二月五日訴外佐々木勘次郎からこれを買い受けてその所有権を取得し、同日その旨の所有権移転登記を経由し、その後原告の亡夫松次郎の叔父訴外三田村寅松にこれを貸与し、それ以来右寅松において同所に水車小屋を建設し使用して来たものである。
しかして原告の夫松次郎は昭和二十六年九月十五日死亡し、原告以外の相続人が全部所定の相続放棄の申述をなし、原告ひとり亡夫の相続人となり、前記宅地に関する権利をも承継取得した。
二、しかるに被告国は昭和二十五年三月二十九日前記原告所有宅地につき、旧自作農創設特別措置法(以下旧自創法と略称)第三条の規定により昭和二十三年七月二日を買収の時期として買収処分をなしたことを原因とする同被告に対する所有権移転登記を経由のうえ、同日更に右宅地につき同年十月二日同法第十六条の規定により売渡処分をなしたことを原因とする被告賛五郎に対する所有権移転登記を経由し、現に被告賛五郎が右宅地を使用中である。
三、しかして右宅地については登記簿上前記のような買収売渡の処分があつたような記載があるが、全然そのような処分に関する手続がない。あれば必ず異議訴願をなすのであつた。買収令書の交付もない。従つて右登記簿に記載されているような右宅地の買収処分は存在しないから、まず被告国に対し右買収処分の不存在の確認を求める。
四、若し仮に右買収処分の不存在の確認を求める請求が理由ないとすれば右買収処分には次のような瑕疵がある。
1 右宅地は被告賛五郎が旧自創法第十五条第一項第二号所定の賃借権等を有する土地ではない。原告の亡夫松次郎はもとより前記三田村寅松も右宅地を被告賛五郎に貸与したことがない。
三田村寅松は元来右宅地を貸与する権限がないばかりでなく、右宅地上には前記のように水車小屋があり水車に利用していた宅地であるから、被告賛五郎の農業用施設として同被告にこれを貸与させるわけもないのである。
2 被告国は右水車小屋をそのままにし、右宅地のみを買収し、被告賛五郎にこれを売り渡したため、被告賛五郎は右宅地の売渡を受けた後無断で水車小屋を破壊し除去してしまつたのである。
元来建物のある宅地を附帯買収するにはとくに慎重に審議し、宅地とともに建物をも買収するなど被買収者に損害を生じないようにしなければならないのに、被告国が右事情を無視し不可分である水車小屋を分離して宅地のみを買収し被告賛五郎にこれを売り渡したのは前記被告賛五郎の不法を助長させたことになる。
3 また右宅地は被告賛五郎が今次農地改革に際し売渡を受けた農地とは全く附属性がなく附帯買収の対象になり得ないものである。
以上の点において前記買収処分は違法であり、しかもその瑕疵は重大且つ明白なものであり右買収処分を当然無効ならしめるものであるから、ここに被告国に対し予備的にこれが無効確認を求める。
五、以上のように前記登記簿記載の前記宅地の買収処分は不存在かそうでないとしても無効のものであるから、これを前提とする前記被告国に対する所有権移転登記はその登記原因を欠くことになり、また前記被告賛五郎に対する所有権移転登記も、前記買収処分に前記のような瑕疵がある以上これを前提とする売渡処分もまた当然無効であるから、前同様その登記原因を欠くことになり、いずれも抹消されなければならないものといわなければならない。被告等に対しそれぞれ右所有権移転登記の抹消を求める。
六、被告等の答弁事実中原告の亡夫松次郎が製炭業者であつたこと及び本件宅地は元被告賛五郎の所有だつたのが、その後被告等主張のように被告賛五郎が訴外佐々木善八に売り渡し、右善八の相続人前記佐々木勘次郎から原告の亡夫松次郎に売り渡されたものであることはこれを認めるがその余の事実は争う、
と陳述した。(立証省略)
被告等訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、
一、原告主張一の事実中「以来訴外三田村寅松が同所に水車小屋を建設し使用して来た」との点を否認し、その余の事実を認める。
二、同二の事実中原告主張の被告国及び被告賛五郎に対する各所有権移転登記の経由されていることは認めるがその余の事実及び同三、同四の1 2 3及び同五の各事実を否認する。
三、原告の亡夫松次郎は製炭業者であり、同人の叔父の前記三田村寅松は同人の差配人として原告主張宅地の管理をしていた。被告賛五郎は右寅松から右宅地を借り受けていたのであり、右宅地を使用していたのは被告賛五郎であり、寅松ではない。
右宅地は元被告賛五郎の所有であつた。同被告は明治三十六年九月二十九日訴外佐々木勘次郎の先代佐々木善八に売り渡し、ついで善八の相続人勘次郎から原告の亡夫松次郎に売り渡されたのであるが、被告賛五郎は売り渡後も所有者から右宅地を借り受けて使用していたのである。
しかして被告賛五郎は昭和二十三年四月一日附売渡通知書をもつて田頭村大字田頭地内の畑二筆合計三反七畝十六歩の売渡処分を受けており、右宅地は右売渡を受けた畑地による営農上にも必要な土地であつた。
四、右宅地については、その所在の田頭村農地委員会が被告賛五郎の附帯買収の申請に基き昭和二十三年五月二十二日その買収の時期を同年七月二日とする買収計画を樹立し、即日公告し、同日より十日間書類を縦覧に供したが、異議訴願もなかつたので岩手県知事が所定の承認を得たうえ、同年八月一日原告の夫松次郎(小保内正一)宛の買収令書を発行し同年二月二十三日右令書を原告の夫松次郎に交付したのであり、右買収の手続は適法であり何等原告主張のような瑕疵がない。従つて売渡処分にも瑕疵がない。
以上により原告の本訴請求は失当であると陳述した。(立証省略)
三、理 由
原告主張一の事実中の「以来訴外三田村寅松が同所に水車小屋を建設し使用して来た」との点を除くその余の事実、原告主張の被告国及び被告賛五郎に対する各所有権移転登記の経由されていることは当事者間に争がない。
原告は前示登記により窺われるような原告主張宅地の買収処分は不存在であり仮にそうでないとしても無効であると主張するから案ずるに、成立に争のない乙第一、二、三号証、第四号証の一、第五、六号証、第七号証の一、二、第八、九号証の各一、第十、十一号証、第十二号証の一、右乙第四号証の一、第五、六号証、第十二号証の一、証人佐々木三五郎、錠内清八の各証言、被告本人佐々木賛五郎の尋問の結果により全部真正に成立したものと認める同第四、十二号証の各二に右各証言被告本人の供述を彼此綜合すると、
1 被告等主張四の本件宅地について附帯買収計画樹立から買収令書交付までの買収手続に関する事実
2 本件宅地は元被告賛五郎の所有地であつたが被告等主張のような経過で原告の亡夫松次郎の所有になつたものであること、右宅地上には水車小屋があり被告賛五郎が右宅地を水車小屋とも訴外佐々木勘次郎所有時代から同人から借り受け、原告の亡夫松次郎の所有になつてからも引き続き右松次郎の叔父三田村寅松を通じて原告の亡夫松次郎から借り受けていたこと、右水車小屋の水車は佐々木勘次郎所有時代からこわれて使用できなくなつてしまい、その頃から被告賛五郎が右宅地及びその地上の水車小屋を農業経営の作業場として使用していたこと、被告賛五郎の耕作田畑は合計一町二反歩であり、そのうちの畑二筆合計三反七畝十六歩は昭和二十三年四月一日附の売渡通知書をもつて売渡を受けたものであり、右売渡を受けた畑地二筆も古くから被告賛五郎が耕作している土地であり前記宅地とは約百二十間の距離にあり右畑地による営農上でも右宅地を必要としていたこと
を認定することができる。右認定に反する証人三田村寅松の証言は前示各証拠に照しにわかに採用することができない、甲号各証によるも右認定を左右することができない。
しからば本件宅地につき被告等主張の買収令書の交付による買収処分の存在することが明らかである。
しかも、
1 右宅地は被告賛五郎が原告の亡夫松次郎の所有以前からこれを借り受けていたところであり原告亡夫松次郎の所有になつてからも引き続き借り受けていたものであること前示認定のとおりであり、しかしてこのような借地権限を有する以上それが賃貸借契約に基くものであると使用貸借契約に基くものであるとを問わず旧自創法第十五条一項二号にいわゆる借地権限あるものに該当すること右規定自体により明らかである。
従つて前記被告本人佐々木賛五郎の供述が賃料の点において少しく曖昧なものがあつたとしても前示認定を左右することができない。
2 建物のある宅地を附帯買収するときはとくに慎重審議しなければならないとしてもこの場合常に必ずしも宅地と建物を同時に買収しなければならないものでもない。本件宅地のみを買収するに際し、原告主張のように右宅地のみの買収がその主張のような被告賛五郎の不法を助長する結果となることを窺わしめる情況のあつたことを認めるに足る何等の証拠がないから、右宅地のみの買収を原告主張のように違法とすることができない。
3 宅地の附帯買収における右宅地の解放農地との関係は必ずしも立地的附属性を要しない。前示認定の実情にある以上右宅地の附帯買収を相当とするものといわなければならない。
しからば前示宅地買収処分は適法であり何等原告主張のような瑕疵がないものといわなければならない。ましていわんや右買収処分を当然無効にするような重大且つ明白な瑕疵のないことは明らかである。
本件宅地買収の不存在の確認を求める原告の第一次の請求も、これが無効確認を求める原告の予備的請求もまた失当である。
従つて前示買収処分の不存在処分若しくは無効を前提とする前示被告等に対する各所有権移転登記の抹消登記手続を求める原告の請求もいずれもその余の判断を待つまでもなく失当である。
よつて原告の本訴請求はいずれもこれを棄却すべく訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十五条により主文のとおり判決する。
(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)